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肝機能障害

肝臓の働きについて

肝臓の働きについて肝臓は、腹部の右上に、肋骨に守られるように位置しています。重さは1~1.5kgにも及び、私たちの身体の中でもっとも大きな臓器です。栄養素の代謝、解毒、エネルギーの貯蔵、タンパク質の合成、胆汁(消化液)の生成など、私たちが生きていく上で欠かせない役割を担っています。肝機能障害はこれらの肝臓の機能が低下している状態であり、健康、場合によっては命が危険にさらされます。
一方で「沈黙の臓器」と呼ばれるように、ダメージを受けても長期にわたって機能する丈夫さがあります。言い換えると、なかなか自覚症状が現れないということでもあり、これが肝機能障害の発見・治療の遅れにつながっています。
何らかの症状に気づいた時、健康診断などで肝機能の数値の異常を指摘された時には、お早めに当院にご相談ください。

肝機能障害とは

肝機能障害とは肝機能障害(肝機能異常)とは、肝臓が何らかの原因で損傷を受けて炎症が起こり、肝細胞が破壊されることにより、血液検査で肝機能に異常が見られる状態を指します。
血液検査では主にAST、ALT、γGTP、ALP、LDH、ビリルビンなどの数値が高くなり、その数値が高いほど肝機能障害の程度が深刻であることを示します。初期段階ではほとんど自覚症状がないため、健康診断や人間ドックで発見されることが多いです。

肝機能障害の原因

肝機能障害の主な原因には、脂肪肝、ウイルス性肝炎、薬剤の使用による薬物性肝障害、自己免疫の異常による自己免疫性肝炎などが挙げられます。

脂肪肝

脂肪肝とは、過剰な糖質や脂質が中性脂肪に変わり、肝臓に蓄積される状態を指します。これは食べ過ぎや運動不足によって引き起こされます(非アルコール性脂肪肝)。外見がスリムな人でも軽度の脂肪肝になることがあります。特に糖尿病の方は、脂肪肝が糖尿病の悪化要因となる可能性があるため、特に注意が必要です。一方、脂肪肝はお酒の飲みすぎで、中性脂肪の合成が高まることによっても発症します(アルコール性脂肪肝)。

肝臓は高い再生能力と代償能力を持ち、損傷を受けても残った細胞がその機能を維持します。そのため、肝臓に異常があっても痛みなどの症状が出にくく、気づいたときには病気がかなり進行していることが多く、肝炎や肝硬変に進行する可能性があります。
特に、脂肪肝になると血糖を下げるホルモンであるインスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)となり、脳・心臓や血管系の病気を引き起こす可能性があるため、生活習慣の改善が必要です。

脂肪肝の症状

脂肪肝には自覚症状がなく、健康診断で指摘されることがほとんどです。生活習慣病と合併することが多く、糖尿病、高血圧、脂質異常症の方や、20歳の頃より体重が10kg以上増えた方、または短期間で急激に体重が増加した方は、脂肪肝のリスクが高いです。特に糖尿病、高血圧、脂質異常症に脂肪肝が合併すると、脳梗塞や狭心症・心筋梗塞など脳心血管疾患のリスクが非常に高まるため、早期の対策が重要です。

脂肪肝の原因

食べ過ぎ:カロリー過多の食事、特に糖質や脂質に富んだ食品を過剰に摂取すると、皮下脂肪と同様に肝臓にも脂肪が蓄積されます。運動不足もこの状態を悪化させます。
肥満:脂肪をエネルギーに変えるためにインスリンが重要ですが、肥満になるとインスリンの効果が低下します。その結果、体内の脂肪が肝臓に運ばれやすくなり、蓄積されます。また、肝臓内での脂肪合成も活発になります。
アルコール:過度の飲酒は、肝細胞内での脂肪の代謝を阻害して中性脂肪の合成が増加し、肝臓に脂肪が蓄積されます。
その他:糖尿病や甲状腺、下垂体、副腎などの内分泌疾患も脂肪肝の原因となることがあります。

脂肪肝の分類

脂肪肝には、過食や肥満が原因で生活習慣病に合併しやすい「非アルコール性脂肪肝」とお酒の飲みすぎによる「アルコール性脂肪肝」があります。

■非アルコール性脂肪肝→「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」
日本人の脂肪肝の最も一般的な原因は食べ過ぎによる栄養過多です。アルコール摂取とは無関係に発症するため非アルコール性脂肪肝と呼ばれ、これがさらに進行して「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH: Non-Alcoholic Steatohepatitis)」という肝臓の炎症が強く肝細胞の障害が進んだ状態になると、肝硬変・肝不全や肝がんへと進行することがあります。

■アルコール性脂肪肝→「アルコール性脂肪性肝炎(ASH)」
過度の飲酒やアルコールの過剰摂取によりアルコール性脂肪肝が発症し、やがて肝臓に炎症が起こります。この肝炎は「アルコール性脂肪性肝炎(ASH: Alcoholic Steatohepatitis)」と呼ばれ、NASHと同様に、進行すると肝細胞が破壊され肝硬変・肝不全や肝がんのリスクが高まります。

脂肪肝やその他の肝障害が疑われる検査値

※上記の基準値は検査機関によって異なります。
項目 [単位] 異常なし 軽度異常 要再検 要精査・治療
AST (GOT) [U/L] 30以下 31~35 36~50 51以上
ALT (GPT) [U/L] 30以下 31~40 41~50 51以上
γ-GTP [U/L] 50以下 51~80 81~100 101以上

ウイルス性肝炎

ウイルス性肝炎は、A型、B型、C型、D型、E型などの肝炎ウイルスに感染することで発症する肝臓の病気です。A型およびE型肝炎ウイルスは主に飲食物を通じて感染し、B型、C型、D型肝炎ウイルスは主に血液を通じて感染します。特にB型およびC型肝炎ウイルスは、感染すると慢性的な肝臓病を引き起こすことがあります。
肝炎が発症すると、肝臓の細胞が破壊され、肝臓の機能が低下します。一部の患者では、倦怠感、食欲不振、吐き気、黄疸(皮膚が黄色くなること)などの症状が現れることがありますが、全く症状が出ない場合も少なくありません。

薬剤性肝障害

抗生物質、解熱鎮痛薬、抗がん薬、精神神経系の薬剤などの副作用を原因として、肝機能障害を起こすことがあります。医療機関で処方される薬だけでなく、市販薬、漢方薬、サプリメント、健康食品などが原因となることもあります。

自己免疫性肝炎

本来であれば身体を守るはずの免疫が、誤って肝細胞を破壊し、肝機能障害を起こすことがあり、特に中高年の女性に多く見られます。はっきりとした原因は解明されていません。遺伝的な要因も関与している可能性がありますが、ウイルス感染、妊娠・出産、薬物の使用などの後に発症する場合があるため、これらが発症の起因である可能性も指摘されています。

原発性胆汁性胆管炎

自己免疫疾患の1つです。免疫が胆管細胞を破壊することで炎症が起こり、肝臓に胆汁が溜まり、その胆汁によって肝細胞が破壊されてしまう病気です。進行は緩やかですが、放置していると肝硬変から肝不全へと移行する場合があります。

ストレスが肝臓に及ぼす悪影響

ストレスの影響によって脳内で分泌されるコルチコトロピン放出因子(Corticotropin-releasing factor:CRF)という神経伝達物質は、交感神経を刺激し、肝臓の血流や肝機能の低下を引き起こすとの指摘があります。ストレスと肝機能障害の因果関係を個々の症例で実際に確認するのは困難ですが、生活習慣病などさまざまな疾患を予防するという意味でも、ストレスとうまく付き合い、軽減・解消を図ることが大切です。

肝機能障害の症状

障害された場合も自覚症状が現れにくい肝臓は、「沈黙の臓器」とも呼ばれます。
症状に気づいた時はもちろん、健康診断などで肝機能の異常を指摘された場合には、お早めに当院にご相談ください。

初期症状

通常、初期にはほとんど、あるいはまったく自覚症状がありません。ただし、この段階であっても血液検査を行うと、肝機能の数値に異常が認められます。
なお、急性肝炎の場合には、発熱、倦怠感、食欲不振といったような、風邪に似た症状が初期から出ます。

進行してからの症状

進行すると、食欲不振、倦怠感、食欲不振、むくみ、黄疸などの症状が現れます。また重症例では、お腹の中に水が溜まる腹水や、意識障害や異常行動を伴う肝性脳症を合併することがあります。

肝機能障害に伴う検査

肝機能障害および肝臓の病気が疑われる場合には、主に以下のような検査を行います。

採血検査

採血検査血液を採取し、肝機能に関わる項目、ウイルス感染の有無、自己免疫の異常などを調べます。肝臓がんが疑われる場合には、肝臓がんの腫瘍マーカーについても測定します。

超音波検査(腹部エコー検査)

超音波検査(腹部エコー検査)腹部エコー検査は、身体の表面に医療用のジェルを塗って超音波(エコー)の発信器であるプローブを当て、エコーの反射と吸収の度合いを画像にして表すものです。

超音波検査について
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肝機能障害の治療

肝機能障害の原因となっている疾患に応じた治療を行います。

脂肪肝 脂肪肝の治療は、主に肝障害の進行予防と脂肪肝に関連する生活習慣(アルコール摂取を含む)の改善を行います。運動療法や食事療法を通じて生活習慣を見直し、高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満を改善することで、脂肪肝を治療します。
ウイルス性肝炎 インターフェロンなどを用いた抗ウイルス治療が中心となります。治療後も、肝がんの発症リスクを考慮し、定期的に検査を受けてください。
自己免疫性肝炎 免疫システムを制御して自身への攻撃を止めるために、免疫抑制薬や副腎皮質ステロイドの内服などを行います。
薬物性肝障害 原因となっている薬剤や健康食品などを排除します。必要な薬剤については、代替薬を使用します。

当院では、肝機能障害で来られた患者様には、精密な検査で病因を特定して適切な治療に繋げていきます。軽症の場合、悪い原因がない場合は経過観察しますが、専門的治療を要する場合は専門機関への紹介を行います。
また、脂肪肝が発見された場合には、経験豊富な医師や管理栄養士の指導のもと、低カロリー・栄養バランスの良い食事、適度な有酸素運動、良質な睡眠などを目指した生活習慣の見直しを行い、合併する生活習慣病に合せた薬物療法を選択して、脳心血管病への進展を予防することを目標とします。