高血圧症

高血圧症とは

心臓から送り出された血液が、血管の壁を押す力が「血圧」です。血圧は、からだを動かす、寒さを感じる、緊張するなど少しのことで上昇します。こうした一時的な血圧の上昇は、高血圧症とはいいません。高血圧症とは、安静にした状態での血圧の高値が持続的に続く病態のことです。特別な症状はありません。

高血圧症は、医療機関や健診で計測したときに、上の血圧が140mmHg以上、下の血圧が90mmHg以上の場合と定義されます。ただし、医療機関や健診で測定した血圧は緊張などの影響を受けて正確でない場合が多いです。このため、自宅でリラックスした環境で測った「家庭血圧」が重視されていて、家庭血圧では、上の血圧が135 mmHg以上、下の血圧が85 mmHg以上を高血圧症としています。

家庭血圧の測定は、一度に原則2回測定して、その平均値を血圧値として用います。2回の血圧の差が大きい場合は、3回計ることも検討します。
また、朝と晩に測ることを基本とします。朝は、起床1時間以内の排尿後の朝食前・服薬前に、静かな環境で座位1~2分後に測定します。晩は、就寝直前に入浴直後を避けて、静かな環境で座位1~2分後に測定します。朝晩それぞれ5日間以上測定した平均の血圧値により、家庭血圧を評価します。

「上の血圧」とは、心臓が収縮して血液が全身に送り出されるとき、動脈の内側にかかる血液の圧力です。収縮期血圧とも呼ばれ、心臓の収縮期に血圧は最も高くなります。一方、「下の血圧」とは、心臓が拡張する際に、大動脈にたまっていた血液が送り出されるとき、動脈の内側にかかる圧力です。拡張期血圧とも呼ばれ、心臓の拡張期に血圧は最も下がります。

細い動脈が硬くなると下の血圧が上がります。大動脈にまだ柔軟性がある場合は上の血圧は上がらないですが、細い動脈の硬化は下の血圧に影響を与えます。この現象は、高血圧症になりたての方や若い方によく見られます。上下の血圧の差は50mmHg前後が適正ですが、加齢とともに大動脈が硬くなると、下の血圧が下がり上の血圧との差が大きくなります。大動脈が柔軟性を失うと収縮期に血液をためる力が低下し、全身に送り出される血液の量が増えて上の血圧が上がります。一方、拡張期に送り出される血液の量は減ってしまうので、下の血圧が下がります。動脈硬化が進行した状態を表しており注意が必要です。

高血圧症は「本態性高血圧症」と「二次性高血圧症」に分類されます。ほとんどの高血圧症は「本態性高血圧症」であり、遺伝的な体質と生活習慣から生じています。血圧をあげる原因がはっきりしている場合を「二次性高血圧症」とよびます。原因として最も多いのが腎臓の病気で、次がホルモンの異常です。服用している薬が高血圧の原因となっている場合や、睡眠時無呼吸症候群が原因である場合もあります。高血圧症と診断された場合は、はっきりした原因がある「二次性高血圧症」ではないか否かの評価がたいへん重要となり、その有無により治療方針が大きく異なります。

高血圧学会のガイドラインでは、正常域の血圧を「正常血圧」「正常高値血圧」「高値血圧」の3つに分類しています。いずれも治療の必要はありませんが、正常高値血圧の方は、将来高血圧症になる可能性が高いため、生活習慣に気をつけて血圧の測定を続けることが大切です。これまでの研究では、血圧が正常域の方々にくらべて血圧値が 140/90mmHg を超えると脳心血管病になる可能性は明らかに高まります。このため、140/90mmHg 以上を高血圧症と定めています。

成人における血圧値の分類(mmHg)

(高血圧治療ガイドライン2019より)
正常血圧
診察室血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
<120 かつ <80
家庭血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
<115 かつ <75
正常高値血圧
診察室血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
120-129 かつ <80
家庭血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
115-124 かつ <75
高値血圧
診察室血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
130-139 かつ/または 80-89
家庭血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
125-134 かつ/または 75-84
I度高血圧
診察室血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
140-159 かつ/または 90-99
家庭血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
135-144 かつ/または 85-89
II度高血圧
診察室血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
160-179 かつ/または 100-109
家庭血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
145-159 かつ/または 90-99
III度高血圧
診察室血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
≧180 かつ/または ≧110
家庭血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
≧160 かつ/または ≧100
収縮期高血圧
診察室血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
≧140 かつ <90
家庭血圧
収縮期血圧 拡張期血圧
≧135 かつ <85

高血圧症を放っておくと

高血圧症では動脈に常に負担がかかるため、動脈は次第に厚く、硬くなり、血管の内径が狭くなります。その結果、血液が流れにくくなったり動脈が詰まったりして、さまざまな臓器に障害を起こしてしまいます。代表的な合併症として、脳出血や脳梗塞、大動脈瘤、腎機能低下、狭心症・心筋梗塞、眼底出血などがあります。また、心臓は高い血圧のために無理をするため心臓肥大が起こり、心臓の力も低下していきます。

もともと日本人は高血圧症の方がたいへん多く、その結果、脳卒中になる方の割合もとても高率でした。しかし、健康診断や家庭血圧計の普及、さらには高血圧症の管理方法の進歩により、脳卒中の発症率は大きく改善してきました。このように高血圧症に対する管理は、脳・心臓・腎臓など生涯を大きく左右する臓器の合併症を未然に防ぐことができるため、極めて大切な取り組みです。

高血圧の治療

さまざまな研究結果をもとに、脳卒中や心筋梗塞などの脳心血管病を予防するための「降圧目標」(血圧が高い人の血圧をどこまで下げるべきか)が示されています。その目標値は、患者さんの年齢や合併症の有無などにより異なります。

降圧目標

(高血圧治療ガイドライン2019より)
75歳未満の成人
脳血管障害患者
(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)
冠動脈疾患患者
慢性腎臓病患者(蛋白尿陽性)
糖尿病患者
抗血栓薬服用中
診察室血圧(mmHg)
< 130/80
家庭血圧(mmHg)
< 125/75
75歳以上の高齢者
脳血管障害患者
(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、
または未評価)
慢性腎臓病患者(蛋白尿陰性)
診察室血圧(mmHg)
< 140/90
家庭血圧(mmHg)
< 135/85

高血圧症の治療の基本は食事や運動などによる生活習慣の改善です。これらの管理を行っていても降圧が十分ではない場合に、薬による治療が開始されます。

高血圧症の治療薬は、大きくいくつかの種類に分類されます。血管を広げる薬、心臓の過剰な働きを抑える薬、余分な水分や塩分を排出する薬などです。これらの薬を病態や合併症に応じて適切に組み合わせて治療を行っていきます。しかし、薬物治療は効果が過度になると低血圧症状(めまい、ふらつき、立ちくらみなど)が生じるため、一気に血圧を目標値まで下げるのではなく、徐々に目標血圧まで下げていくようなコントロールが重要です。

血圧を下げる薬と特徴

カルシウム拮抗薬
作用・特徴
血管の収縮に必要なカルシウムイオンの細胞内への流入を抑え、血管を拡張させる。血圧を下げる力が強い。
主な副作用
浮腫、顔の紅潮、動悸、歯肉肥厚
ARB(アンジオテンシンⅡ受容体阻害薬)
作用・特徴
血管を収縮させ、塩分・水分の排泄を抑えるホルモン(アンジオテンシンⅡ)の働きを阻害する。副作用が比較的少ない。
主な副作用
動悸、めまい
ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
作用・特徴
アンジオテンシンⅡを作り出しにくくする。心臓や腎臓を守る作用もある。
主な副作用
空咳
サイアザイド系利尿薬
作用・特徴
腎臓から塩分や水分を排泄する働きを促進して血圧を下げる。ARBと併用されることが多い。
主な副作用
低カリウム血症、高尿酸血症、脱水
アルドステロン受容体拮抗薬
作用・特徴
血圧上昇や心臓肥大などに関わるホルモン(アルドステロン)の働きを阻害する。心不全の治療にも使用される。
主な副作用
女性化乳房、高カリウム血症
β遮断薬
作用・特徴
心筋や血管に交感神経の興奮が伝わらないようにする。不整脈の治療にも用いられる。
主な副作用
徐脈、喘息

血圧を下げる薬は高血圧の原因を治すわけではないので、薬をやめると元に戻って血圧が再び上昇する可能性が高いです。しかし、高血圧症の患者さんでも薬をやめることができる場合があります。それは、薬物治療と並行して、減塩・運動・肥満是正など生活習慣の改善を十分に行い、血圧が正常以下にしっかり下がった場合です。

生活習慣の改善について

生活習慣の改善は、高血圧症の治療の最も基本的で大切なものです。主な項目としては、塩分制限、適切な食事内容、適正体重の維持、適度な運動、アルコール制限、禁煙などがあげられます。

血圧を下げるためには塩分制限が最も重要です。血圧が高い場合は1日6g以下の塩分摂取が推奨されています。塩、味噌、醤油などをなるべく控えて調理するようにしましょう。また、外食では塩分が多くなりやすいので、麺類の汁を残すなどの注意が必要です。
カリウム、カルシウム、マグネシウムといったミネラルを多く摂ることで血圧は下がりやすくなります。これらのミネラルは野菜や果物、乳製品に多く含まれるため、意識的に摂取するように心がけましょう。

体重が増加すると血圧もあがります。適正体重を維持するために、菓子や嗜好飲料などの糖分や、揚げ物・調理油などの油脂のとり過ぎによるエネルギーの過剰摂取に十分に注意しましょう。

過度な飲酒は血圧を上昇させてしまいます。また、飲酒が多いと食事療法がおろそかになる場合もあります。適切なアルコール摂取量は日本酒で1合、ビールでは500cc以下と言われ、女性や高齢者ではその1/2~2/3程度が推奨されています。適切な飲酒量を守り、週1~2回の休肝日(飲酒を休む日)を設けるようにしましょう。

適度な運動は高血圧症の改善のために勧められ、定期的に行うことで降圧効果が期待できます。血圧を下げるために有効な運動は有酸素運動です。有酸素運動とは、軽めの運動を持続的に行い、脂肪を燃焼させて酸素を必要とする運動です。速歩程度のウォーキングや軽いジョギング、エアロビクス、水中運動、自転車、レクリエーションスポーツなどがあたります。運動の習慣がない方がいきなり運動を始めると体に負担がかかってしまう恐れもあるため、体の状態に合わせて無理なく徐々に始めるように気をつけます。まず、軽く汗ばむ程度、軽く息がはずむ程度を目安に運動をはじめてみましょう。
煙草に含まれるニコチンは、血管を収縮させて血圧を上げます。また、喫煙時に血液中に取り込まれる一酸化炭素などの有害物質は、血管を傷つけて狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などを発症させやすくします。心筋梗塞の発症リスクを吸わない人と比べると、1日当たり1~14本で3.2倍、15~34本で3.6倍、35本以上で4.4倍でした。このように喫煙は非常に強い脳心血管病のリスクであり、なるべく早期に禁煙に取り組みましょう。

ストレスを受けると血管を収縮させたり心拍数をあげるホルモンが分泌され、血圧が上昇します。このような状態は一過性のことが多いですが、ストレスの高い状況が続いていると血管が傷つきやすくなり、結果として高血圧症に繋がります。また、ストレスが多い生活は過食にも繋がります。過重な労働を控えて、適度な運動や良質の睡眠を心がけ、ストレスと上手につきあい、こころやからだの健康を維持しましょう。

当院では、高血圧専門医が適切な血圧評価と目標血圧を設定し、生活習慣病の指導に加え患者さんお一人おひとりにとって適切な薬物療法を行ってまいります。血圧が気になる方は是非一度ご相談下さい。